Tagliatelle
1. Tagliatelleの基本定義
Tagliatelle は、イタリア中北部、とくに Emilia-Romagna州 を中心に発展した平打ちの卵入りパスタ(pasta all’uovo)です。
形状の特徴は以下の通り。
- 幅:約6〜8mm
- 厚み:比較的薄く、平たい
- 断面:長方形
- 原料:
- farina di grano tenero(軟質小麦粉)
- uova(卵)
Tagliatelleは特に ragù alla bolognese との組み合わせで世界的に知られていますが、この組み合わせ自体も地域文化と深く結びついています。
2. 名称の語源
Tagliatelle という名称は、イタリア語動詞の
tagliare(切る)
に由来します。
もう少し解説すると、
- tagliare(切る)
- tagliato(切られた)
- tagliatelle(「切られたものたち」)
つまり、「生地を薄く延ばしてから“切って”作るパスタ」という製法そのものを名前にしたものです。
この点は、Accademia della Cruscaの語源解釈とも整合しています。
3. 起源に関する「伝説」と「史実」の整理
有名な伝説
よく語られる話に、以下のようなものがあります。
「1487年、BolognaでLucrezia Borgiaの結婚を祝う宴のため、彼女の金髪を模してTagliatelleが作られた」と。
しかしこれは、
- 19世紀後半〜20世紀初頭に作られた後世の創作
- 同時代史料に記載されていない
という理由から、歴史的事実としては否定されているのですが、
現在の食文化史では「文学的逸話(leggenda)」として扱われています。
史実として確実な点
- 卵入り平打ちパスタ自体は中世にはすでに存在
- 13〜14世紀の北イタリア文献に
- lagana
- lasagne
- pasta tagliata
などの記載があるようです。
これらは明確に 「切る」「帯状にする」パスタ を指しており、
つまりTagliatelleという名称が定着する以前から、実体は存在していたと考えることができます。
4. 決定的史料:Artusi(1891年)
Tagliatelleを近代料理として確立させた最大の史料が、
Pellegrino Artusi
『La scienza in cucina e l’arte di mangiar bene』(1891)
この書籍は、
- イタリア初の「国民的料理書」
- 家庭料理を体系化
- レシピを文章で明確に定義
した点で、料理史的エビデンスの中核とされていて、
Artusiはこの中で、
- Tagliatelle
- Tagliolini
- Lasagne
を明確に区別して記述しており、
ここで初めて「Tagliatelle=幅のある卵入り平打ち麺」と文章に使われたようです。
5. Bolognaにおける「幅」の規定
1972年、Accademia Italiana della Cucina(Bologna支部) は、
Tagliatelleの理想的な幅は調理後で約8mm
とする公式文書を、Bologna商工会議所(Camera di Commercio) に登録しました。
これは単なるこだわりではなく、
- 地域料理の保護
- 呼称の乱用防止
- 文化遺産としての定義
を目的としたもので、 Tagliatelleは「何でもいい平麺」ではないという姿勢が
ここで明文化されたといえます。
6. Tagliatelleが卵入りである理由
Emilia-Romagnaは歴史的に小麦の生産が盛んで養鶏が一般家庭に普及しており、
バター・チーズ文化も発達していた地域です。
そのため、
- 水だけのpasta secca(南部)
- 卵を使うpasta all’uovo(北部)
という地域差が生まれ、
Tagliatelleは、農村と家庭料理の結晶とも言える存在になったのです。
7. まとめ
Tagliatelleは、イタリア中北部、とくにEmilia-Romagnaで発展した卵入り平打ちパスタであり、その名称は「切る」を意味するtagliareに由来し製法そのものを表しています。
歴史的にみると、中世にはすでに原型が存在し1891年にArtusiによって近代的定義が確立されました。
現在ではBolognaにおいて幅まで公式に規定される、文化的にも保護されたパスタです。
